第99回 金融危機が来たら、保険契約はどうなるでしょうか?
- ファンクラブ 林則行さん
- 2023年10月21日
- 読了時間: 3分
質問
金融危機の際に、預金者が銀行の前で列を作って自分の預金を引き出すシーンが報道されます。保険については、そのような報道は目にしないので、イメージが湧きません。どのようになるのでしょうか?
回答
貯蓄性の保険はほぼ戻ってこないと考えるべきです。掛け捨て型の保険についても大幅減額がありうると思います。
保険会社は銀行以上に危ない
解説
金融危機に対して、保険会社は銀行以上に脆弱です。無防備という言葉が当てはまるくらいです。
図1には保険株と銀行株のパフォーマンスを記しました。
表示された期間(2008年3月~2011年12月)の初期(水色のシャドーの時期)において、保険株は7割近く下がりました。銀行株の6割超下落より激しいです。これに対して、同期間内で日経平均は最大2割程度しか下がっていません。(なお、図1では日経平均と保険・銀行株が連動していることを見やすく(強調)するために、左右の軸でメモリを変えています。)

上昇期についても同様です。最低値から保険株は4倍、銀行株の2.5倍になりました。日経平均の2.3倍より大きいです。
保険株は株式の動きに大変敏感だということがよくわかると思います。
これから金融危機が来るならば、同じようなことが起きるでしょう。すなわち、保険株は大幅下落が生じるということです。
何故か?
理由は、保険会社の資産構成にあります。
図2にあるように、保険会社は株式・債券合計の保有比率が高いです。株式だけの比率は図3~5にあり、総資産に占める日本株の割合は住友生命7%、第一生命9%、損保ジャパン23%です。これに対して、みずほ、三菱UFJフィナンシャル、三井住友フィナンシャルは1%程度です。

どうしてこのような違いになるのか?保険会社には銀行のような貸出のビジネスがないことが理由です。もちろん、貸出のための営業や審査も脆弱です。したがって(ということで)、集まった資金(の向け先)は金融市場の投資証券(株式・債券)に向かい(なり)ます。特に生命保険は長期の運用が主体ですから(=契約者が死ぬまでの時間が長いから)、10年ものの債券の運用が中心になります。
金融危機の際の保険:生き残れないだろう
金融危機が訪れた際、保険会社はどうなるのか?
「生き残れない」というのがぼくの見解です。
想定:
① 債券
今週の定例発信「金融危機が来たら、年金はどの程度さがるでしょうか?」において、国内外債券価格は50~60%下がると予測しました。ここでは50%の下落を想定します。
② 株式
株式については拙著『世界が大不況でも資産を増やせるって本当ですか?』にあるように、70%の下落を想定します。
図3~5には、住友生命、第一生命、損保ジャパンの国内外債券、国内外株式の金額(兆円)と総資産に占める割合を示しました。この資産内容に対して、債券の暴落率50%、株式の暴落率70%を掛け合わせると、失われる資産の金額が計算されます。
例えば、住友生命では13.9兆円の含み損が生じます。同社の純資産は3.1兆円ですから、差し引き10.8兆円の債務超過となります。
同様に計算すると、第一生命で11.8兆円、損保ジャパンで1.0兆円の債務超過です。
救世主は現れないだろう
生命保険、損害保険には業界団体があり、加盟各社に財務上の問題が生じた際のセイフティーネットがあります。しかし、あまりに小規模なものであり、大きな危機には全く役に立ちません。
具体的には、生命保険契約者保護機構には4000億円の資産があり、損害保険契約者保護機構には501億円の資産があります。これらの金額は住友生命1社、損保ジャパン1社が倒れただけでも、焼け石に水の金額にしかなりません。
また、保険契約には銀行のペイオフ制度(1000万円までの預金は全額保護)のような制度がありません。
話を簡単にすれば、保険会社に預けた資産はゼロになると思った方がいいでしょう。政府からの支援もあるかもしれませんが、それは掛け捨ての保険の救済に振り向けられるでしょう。図3~5に示した状態のままでは、保険金の支払いが全くできない状態となるからです。



生命・損害保険会社は銀行以上に厳しい状況に置かれることになるでしょう。
私と妻は、バブル時代の30年前に契約した年利4%の高金利の貯蓄型生命保険を保有しておりました。第31回ウイズの記事の内容を拝見して契約を継続するのが怖くなり、昨年末に全て解約しました。そして、それをそのまま全てゴールドの購入に充てました。すると、このところの価格高騰で数ヶ月で10%以上のリターンを得ることができました。今回の掲載を拝見し、改めてこの決断の正しさを確信してます。これからもゴールドを保有し続けます。