第94回 投資家として実力を伸ばすにはどうしたらいいですか?
- ファンクラブ 林則行さん
- 2023年9月17日
- 読了時間: 4分
質問:
林さんのこれまでの金価格や相場展開に関する予測は概ね正しかったと思っています。自分でも同じような分析力をつけたいのですが、何をどうしたらいいかがわかりません。
回答:
考え方を今までとガラッと変えることが大事です。
今日はそのお話をいたしましょう。
情報は少ないほど良い
「情報は少ないほど良い」と申し上げると、驚く人、反論する人が多いのではないでしょうか?ぼくがこれまで接してきた機関投資家の中で、データをたくさん並べあげて議論する人に優秀な人はいませんでした。むしろ、突出した力のある人は、「今はここだけを注目すべきだ」とポイントをひとつに絞って
いました。
例えば、現時点ではどの経済データが最重要か?
それは米国の失業率です。
米国の経済データの多くがかなり悪化してきています。
最後まで崩れないのが失業率なのです。何故なのか?
皆さんが経営者の立場に立てばわかるでしょう。誰だって、できるだけ人を切るのは嫌です。だから、まずはいろいろと経費削減に手は打ち、最後の手段として人切りを行います。そのような理由から、失業率が増え始めたら、いよいよ不況入りだと考えていいわけです。
ひとつに絞ることの重要さ。
株主として接してきた企業経営者についても同じことが言えます。一代で大きな会社を築いた創業経営者(例:大塚家具、ドン・キホーテ、ヤマダ電機)に関しては、会社の強みを聞いても、今後の業績を左右する好(悪)材料を聞いても、一つに絞った回答をします。回答が率直でわかりやすいです。
ネットの記事や本を見てもこのようなことは書かれていません。
ぼくはこのあたりをジム・ロジャーズから学びました。彼の発想はいつも奇想天外でした。今思えば、ひとつに絞っていたので、常人とは違う見方が際立っていたのでしょう。
ひとつに絞るーーーこれを別の言い方に置き換えると、「本質を見抜く」となります。本質は常に物事の中心にあり、中心はひとつしかないからです。
データから読み取れることは多々あります。同じデータでも楽観的な見方ができるかもしれないし、悲観的な見方ができるかもしれません。株価に既に織り込み済みだとなれば、悪材料でも悪いデータだとは解釈できなくなります。
本質を見抜く力の有無を測るテスト
皆さんには本質を見抜く力がありますか?
皆さんも次の問題をご自分で考えてみてください。
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(問題) 夏の終わりになるとセミの死骸を見かけることがあります。 これに対して、日々目にする雀の死骸は見かけないでしょう。どうしてか?
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(本質を外した回答)
セミの生態はスズメとはかなり違います。セミは寿命が短いから木から木へ飛び移るくらいのことしかしません。従って、セミが死ぬとしたら、木のそばになります。
これに対して、スズメは寿命が長く、いろいろな場所へ飛び交うので、寿命が尽きそうになると、自分が選んだ死に場所へと向かうのでしょう。
(上の回答がダメな理由)
私たちにはセミの生態もスズメの生態も詳しい知識はありません。生態と死に方にどういう関係があるかもわかっていません。想像に過ぎないです。想像のもとに考えた回答は、「セミの死骸は見るがスズメは見ない」という事実に合わせるように作文しただけです。
(本質をとらえた回答)
死骸を見ないという点では野生の猫やカラスも同じです。つまり、動物ごとの生態には大差はないのではないか?しかし、セミだけが突出して死骸を見ます。ここが出発点です。何が違うのか?
物事は質と量から成ります。質に差がないとしたら、量に差があるのではないか?このように考えていきます。
そこで、セミの数とスズメの数の違いに注目します。つまり、動物の個体数が多いほど死骸が目立つのではないかと考えるわけです。
ここまでは自分で考えることができますが、実際にどのくらいの数が生息しているかは考えてもわかりません。ネット検索の出番です。
正確な統計はないようですが、日本のセミの数はひと夏に1000億匹いるようです。これに対して、スズメは0.2億羽(2000万万羽)しかいません。
つまり、5000倍の数の差があります。5000倍も違いがあれば、死骸が目立つのは当然でしょう。
どうでしたか?
皆さんは本質をつかんだ回答に辿りついたでしょうか。
ぼくがこうした回答をできるようになるまでに、プロの機関投資家になってから10年以上が必要でした。
皆さんの中には「すぐにはできない」と感じた人がいるかもしれません。それでも、キーワードは「ひとつに絞る」であり、「本質を見抜く」ことだということがおわかりになったでしょう。ここからスタートです。このことが頭にあれば、自分をそちらの方向に向けていくことが可能になってきたと思います。時の経過とともにだんだんと、「ひとつに絞る」が近くなっていきます。
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