質問:
米国の庶民の中で、今後、経済の厳しい現実に向き合うことになる人達とはどのような方々なのでしょうか?
回答:
学生です。
学生ローンはとびっきりの緩和措置が取られてきました。8月末にはその条件が解除になります。延滞が増えることは確実です。
解説:
学生ローンの延滞増加は確実
この措置により、約4,100万人の学生ローン債務者が返済負担から一時的に解放されました。ローンの総額(残高)は2023年第二四半期現在、1.6兆ドル(220兆円)です。
学生ローンの残高は庶民向けローンの中で3番目に多いです。第一位の住宅ローンは12兆ドルと圧倒的な大きさですが、第二位の自動車ローンとほぼ同額で、第三位に位置しています。第四位のクレジットカード・ローン(1.0兆ドル)より、かなり大きいです。
これは日本の学生ローンとは比較にならないほど大規模です。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が提供する貸与奨学金(返済必要)は、日本で最も利用者が多い学生向けのローンですが、2020年度における貸与奨学金の貸与総額は約6兆円にすぎません。
米国の学生ローンがここまで大きい理由は文化的な背景にあります。一般に、米国では「高校を卒業したら、自分の暮らしは自分でまかなう」という風習があります。子供は親の家から独立することになります。一方、親は子供が生まれた時点から、子供が大学生になる時期に受け取ることのできる信託財産を設定します。ただし、それができるのは富裕層だけでしょう。庶民の子供は自分で学費を工面しなくてはなりません。
政府の優遇措置により、学生ローンの延滞率(残高に占める30日以上の延滞)は急激に減少しました(図1参照)。しかし、9月から従来通りに利子も延滞金も払わなくてはならないとなれば、延滞率が従来レベルの戻ることは確実です。
景気の悪化を受けて、クレジットカードローンの延滞率はコロナ前の水準を抜いて、7.2%に達しています。学生ローンも景気の影響を同様に受けるでしょうから、延滞率が10%を超えていったとしても不思議ではありません。
ローン債務者は出費(消費)を抑えるでしょう。債務者は人口の12%に達していますから、現在既にマイナスになっている全米の小売り売上(実質)はさらにマイナス方向に動いていくリスクが大きいです。
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