回答:格付けの変更は全く無視していい情報です。
金融危機は近づいてはいますが、格付けの変更は「いよいよ」を知らせるものではありません。(金融危機がいつ頃始まるかについてのぼくの予測は、定例発信第117回 7月29日『NY株式大暴落への最新の信号点滅状況を教えてください』に記しました。)
解説:
1.格付け会社の仕事は後出しじゃんけんと同じ
皆さんに、「機関投資家は馬鹿の集まりだ」という話をしてきました。拙著『株の暴落サインを』(宝島社)にも書きましたし、定例通信にもたびたび記してきました。
格付け会社の格付け変更も同じです。金融市場において債券価格が下がると(=長期金利が上がると)、それを見て格付けを後から変更するものです。
簡単にいえば、後出しじゃんけんです。
投資家たちが債券のリスク増大を懸念して売り始めれば、価格が下がり、金利が上がります。これを見て、「こりゃ大変だ。債券が売られ始めた」と気づき、理由をあれこれ付け加えながらレーティングを下げるわけです。
図表1を見れば、それが明確に描かれています。
英国の格付けが変更されたのは、2022年9月30日でした。これを行なったのは三大格付け会社のひとつ、S&Pでした。それまでのAAからAA-に引き下げたのです。
この日の長期金利は4.2%でした。図を見るとわかるように、ほぼ頂点に近い位置です。2020年の夏には0.1%だった長期金利がじりじり上がっていき、2023年8月からは2%だった金利が一気に4%を超えました。
格付け会社は「英国は大変なことになっている」と思い、格付け変更を決めたわけです。
米国の格付け引き下げは2023年8月1日(図1)でした。これを行ったのが、三大格付け会社のひとつフィッチでした。長期債格付けを最上位の「AAA」から「AA+」に1段階引き下げたと発表しました。その理由がお笑いものです。
〇今後3年間で予想される財政状況の悪化
〇高水準で拡大しつつある政府債務
となっていますが、これらはこの夏になって始まったことではありません。これが本当の理由ならば、2年前でも3年前でも格付け引き下げができたはずです。
2.米国破たん時には格付け会社はこう動く
米国の株価が暴落を始め、債券が暴落し始めた場合、格付け会社はどのように対応していくのか。欧州危機において実質破たん状態となったギリシャが好例なので、見ていきましょう。
ギリシャは2009年10月に自国の嘘を公表しました。それまで発表していた財政赤字額(GDPの4%)はウソで、実は13%だと暴露したのです。あまりにも大きな差と国家が嘘をついていたという信用失墜によって、投資家は愕然(がくぜん)とし、債券を売り始めました。
ギリシャ債券の格付けは即刻引き下げるべきでした。「嘘つきは信用するな。投資不適格国家だ」と宣言するべきでした。すなわち、即刻C格という低い格付けに変更すべきでした。
しかし、格付け会社はすぐには動きませんでした。図2にあるように、最初にレーティングの引き下げを行ったのは2か月も経った12月に入ってからでした。格付け三大会社の変更が出揃ったのが翌年1月でした。
しかも、少しずつ格付けを引き下げていきました。ムーディーズを例にとるならば、2010年1月の時点で、A2からA3への引き下げを行いました。まだ、ギリシャにA格があるという認識です。A格はB格やC格と違い、まだ投資適格だという認識です。
次の引き下げ時期は2010年4月~6月で、この間、3社が相次いで引き下げました。2010年4月の長期金利は7.8%で、21世紀に入り最高水準に達していた時期です。つまり、21世紀に入って最低の債券価格にまで売られ始めた時期です。
その後も図2にあるように、回数を重ねながら少しずつ引き下げました。最初の1社がC格(投資不適格)に引き下げたのは2011年6月でした。この時点で長期金利は16%超になっていたのです。米国が3%の金利だった時期に16%にまで売られ込まれたのです。誰が見ても、破たん国家だったことは明らかでした。格付け会社はここまで市場後追いなのです。
今後、米国株式が暴落を始めれば、債券も同時に売られ、金利上昇が始まるでしょう。しかし、格付け会社はなかなか動こうとせず、投資家が、「ここまで来たら、破たん状態に間違いない」と気づいてから、自分たちのレーティングを変更するでしょう。機関投資家とはこの程度の人たちです。
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