質問:
海水には膨大な量のゴールドが溶けていると聞きました。それを採取する技術が出来たら、ゴールド価格は暴落しないでしょうか?
回答:
心配ありません。非常に遠い将来にそのような日が来るかもしれませんが、その前にゴールド価格は何倍(または何千倍)にも上がっているでしょう。
解説:
1.現状の1万倍の技術革新または価格上昇が必要
海水には50億トンのゴールドが含まれていると言われています。人類が歴史上掘り当てたゴールドは20万トン弱だと言われていますから、50億トンはとてつもなく大きな値です。50億トンすべてが採取できないとしても、その0.1%(すなわち500万トン)が採取できただけでも、ゴールド価格は完全に破壊されてしまうでしょう。
生産量過多により価格破壊が起きつつある好例はダイヤモンドです。デビアス社に供給や価格が完全にコントロールされていたため、ダイヤモンドは長年にわたり高値を維持してきました。ところが、天然とほぼ変わらない人工のダイヤモンドが製造可能になってしまいました。これは今までにない最大級の技術革新でした。
2018年の発売当初の人工ダイヤの価格は1カラット9万円でした。これは同質の天然ダイヤの20~30分の1でした。
販売者はなんとデビアス社自身でした。同社は他社が参入する前に人工ダイヤの市場を押さえたいと思ったのでしょう。他社が参入すれば、価格はその激安価格からさらに10分の1にはなってしまうからです。真珠が天然から養殖ものばかりになったように、今後、人工ダイヤモンドは市場の大半を占めるようになってくでしょう。
さて、話をゴールドに戻しましょう。
今はできないとされる海水からのゴールド回収が技術革新によってできるようになるのか?これは簡単には実現しないでしょう。理由はダイヤモンドに比べて技術革新の度合いが圧倒的に高く、容易には採算がとれないからです。ダイヤモンドの場合、技術革新は数字にすれば20~30倍です。(価格を20~30分に1にしたからです。)これに対して、ゴールドの海水からの採取は1万倍以上のレベルです。
ゴールドは1トンの水に1ミリグラムが溶けていると言われています。1ミリグラムの金は価格にして9円くらいです。水のろ過にかかるコストがどの程度になるのかはわかりませんが、現状で産業廃棄物の水1トンの処理に5万円~10万円がかかります。この値から類推するに、以下の2つのうち、どちらかが起きる必要があります。
●金価格が現状の1万倍以上になる。
⇒金価格が1ミリグラムあたり9万円になれば、産業廃棄物のろ過に似た技術で採算可能になるかもしれません。
●現状の1万倍以上のろ過技術が現在と同コストで実現できるようになる
⇒この場合、現状の産業廃棄物の処理コストが1トンあたり5~10円に下がることになります。
簡単には実現しないのがわかるでしょう。人口ダイヤ以上に道程が遠そうです。
2.技術革新が起こるには数倍の金価格上昇が不可欠
「もう少し身近なレベルで技術革新が起こり、ゴールドの生産量が飛躍的に伸びて、価格暴落が起こる可能性はないのか。」
この質問についても回答しておきましょう。
回答は「技術革新によってゴールドの採掘・生産量が飛躍的に伸びることがあるかもしれないが、その前にゴールド価格は暴騰する」というものです。
具体的に説明します。
金鉱山では現状では1トン当たり3~5グラムのゴールドを採掘しています。採算の最低ラインは鉱石1トンあたり0.5グラムだと言われています。仮に技術革新が起こり0.1グラムしかゴールドが含まれない鉱石でも採算が取れるようになるには、次のどちらかのことが起きる必要があります。
●技術レベルは現状維持のまま、金価格だけが単純に5倍上がる。
●現状の5倍の生産性を持つ技術革新が生まれる。
ゴールドは簡単に取れる場所からは、すでに取り尽くしてしいます。昔は地表付近に露出した金鉱石からゴールドを採掘していました。実例としては、江戸時代に世界最大級の産出量を誇った佐渡金山です。今昔物語にも登場するくらいの昔からゴールドの採掘をしていたようですから、当時は単純な技術で採掘できたのでしょう。
その佐渡金山も1989年には休山になりました。現在では南アフリカには地下4000メートルを超えるほど深い場所から採掘する鉱山があり、3000メートル級ならば珍しくありません。
採掘に関する技術革新が起きれば、4000メートル以下の深い岩盤からでもゴールドを採掘することができるようになるでしょう。また精錬に関するコスト削減が進めば、1トン当たり0.1グラムの鉱石でも採算可能になるかもしれません。
こうしたことが起きるには、革命的な技術革新が必要です。そのために重要な要件がひとつあります。皆が「ゴールドこそ宝の山だ」と信じて、大勢が参入することです。そのためにはゴールドで大儲けができる環境が整うことが必要です。端的に言えば、価格が現状より格段に上がることが前提となります。
好例はスマートフォンです。スマートフォンが日進月歩に進化を遂げている裏には、「ここが儲け時だ」という資本家の考えがあるわけです。大資本が優秀な人材を集めて、集中的にR&Dを行っているので、技術革新が止まりません。
これに対して、ゴールド生産は魅力的な産業ではありません。産金株は1997年から上がっていません。正確に言うと、現在の株価の方が1997年よりやや低いのです。この間に、金価格(ドル建て)は6倍近く上がったのと対照的です。(2023年5月1日ウイズ第74回 『ゴールド価格が上がる最大の要因は何ですか?』参照)
原油価格の高騰で大手資本がエネルギー業界に大勢参入し、代替エネルギーに関する技術革新が進んできたように、ゴールド価格が現在の数倍になれば、資本家の目にはゴールドが魅力的に映るようになるでしょう。そして現状では想像もできない技術革新が生まれるでしょう。
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