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執筆者の写真ファンクラブ 林則行さん

第85回 ネット銀行を安全な順番に並べてください。

質問:

日本のネット銀行は経営状況は良好ですか?米国の中堅銀行の経営悪化の影響は出ていませんか?


回答:

ネット銀行の経営は健全です。多くのネット銀行は金融危機が来ても破たんしないでしょう。


安全順:





解説:

2022年10月14日の第46回ウイズにおいて、ネット銀行の安全性について述べました。2023年3月末の決算が出そろいましたので、最新の経営状況について分析し、安全順に並べました。詳しい内容は表1に示しました。






➊破たんリスクは債券の保有割合で決まる

日本や海外の国債、地方債が支払い不能に陥った場合、それを大量に持っている銀行は破たんする可能性が高いです。日本や世界の大手銀行や生命保険、損害保険会社、証券会社が該当します。年金も大量の国内外債券を保有していますので、資産規模が大幅ダウンし、支給額は大減額になるでしょう。


これに対して、ネット銀行は国債の保有率は高くありません。最も安全だと考えられるセブン銀行の場合、保有債券の総額が1000億円なのに対して、純資産が2500億円超あります。仮に債券が全額焦げ付いたとしても、まだ1500億円超の純資産が残ります。2500億円超を1000億円で割った数値が債券カバー率で、セブン銀行の場合2.55(=255%)です。


債券カバー率が大きいほど安心で、特に100%を超えれば、純資産がゼロになってしまう可能性は低いです。


❷自己資本倍率は高いほどいい。

経済危機がやってきた場合、破たんするのは国内外の債券だけではありません。赤字会社が多くなり、中には倒産してしまう会社も出てきます。銀行はこうした企業にも貸し出しを行っているでしょうから、焦げ付き融資が出てきます。したがって、それに備える意味で、純資産が大きいほど安定感があります。


ここでもセブン銀行が光っています。自己資本率が19%です。総資産1兆3000億円に対して純資産2500億円で、総資産を純資産で割って19%という数値が算出されます。19%とは総資産の19%が焦げ付いても会社は倒れないという意味です。


明確な基準はありませんが、5%以上になれば安心だと言えるでしょう。


こうした観点から一番安全だと言えるのがセブン銀行ですが、それ以外にもイオン銀行、ペイペイ銀行、オリックス銀行が安全圏にあります。


❸親会社の支援が得られそうな銀行は安全

ネット銀行の経営が傾いた時に、親会社が支援に入る可能性が高いと考えられる銀行があります。それが楽天銀行、AUじぶん銀行です。


楽天銀行は楽天の子会社です。6月19日付第81回のウイズに記しましたように、楽天銀行が破たんしてしまうと、楽天の事業全体がストップしてしまいます。そのため、親会社としては何としても銀行子会社を守らなくてはなりません。


同じことはAUじぶん銀行にも言えます。この銀行はAUが75%の株主で、残りの25%は三菱UFJ銀行が持っています。この銀行が破たんすると、携帯ユーザーのAU離れが一挙に起こります。


金融危機が起こり、三菱UFJ銀行が経営破たんに陥った場合、AUは三菱UFJから25%の株を買い取り、自力でAUじぶん銀行を守り抜くでしょう。


不安が残る2つの銀行

ソニー銀行

ソニー銀行についても、「親会社のソニーが必死で守ろうとするのではないか」と皆さんは思うかもしれません。その通りでしょうが、あまりに規模が大きいので、それができない可能性があるというのがぼくの見立てです。


ソニー銀行は債券カバー率が29%と低いです。つまり、債券がすべて紙くずになってしまった場合、29%は自力で損金処理できますが、残りの71%は損金処理できず、経営破たんに陥ってしまいます。また、自己資本率が3%と低いので、債券以外の貸出が焦げ付いても、破たんは起きてしまいます。


そこで頼るのは親会社のソニーファイナンシャルグループです。ところが、ここに大きな問題があります。それはこのグループには生命保険、損害保険の子会社が入っていることです。生損保は一般に有価証券の保有比率が銀行よりも高いのです。


具体的に言うと、このファイナンシャルグループの総資産は20兆円で、そのうち有価証券が15兆円超もあります。純資産は0.6兆円しかありません。有価証券全体のうちどのくらいが焦げ付くかはわかりませんが、0.6兆円以内に収まると考えるのはあまりにも楽観的です。


その場合はソニーファイナンシャルグループの親会社であるソニー本体が支援に乗り出すことになります。この会社には7兆円超の自己資本があります。これを取り崩すことになるのですが、15兆円のうちの焦げ付きが7兆円以内で済むかどうかはわかりません。


住信SBIネット銀行

金融危機が訪れた際に、SBIがこのネット銀行を救うことができるかがポイントです。社名からわかるように、この会社は住友信託銀行とSBIホールディングスによって設立され、両者の現在の持ち株比率はそれぞれ36%です。


最初にわかることは、住友信託銀行は金融危機が訪れた際には、本体の資金繰りで精いっぱいだということです。6.9兆円の有価証券を保有しているのに対し、純資産が2.8兆円しかありませんから、破たんは免れないでしょう。会社を少しでも救うため、住信SBIネット銀行の持ち株はSBIに売り払うことになると思います。


これに対して、SBIホールディングスは証券業界の中では最強の力を誇っています。野村証券より経常利益が大きく、口座数は約2倍もあります。しかも、SBIの本体では国内外債を多く保有しているようには見えません。


ただし、問題は、SBIが銀行業務に手を広げていることです。SBIの100%完全子会社にSBI地銀HDがあります。その中の代表的な子会社がSBI新生銀行(持ち分50%)です。ここには1.5兆円の有価証券が保有されており、純資産が1.0兆円しかないので、保有有価証券の大半が国債外債だった場合は、破たんしてしまいます。


また、SBI地銀HDは地方銀行と資本業務提携を行っており、傘下にある8つの銀行の持ち株は以下の通りです。

  • 筑波銀行(20%)

  • 福島銀行(20%)

  • 福井銀行(20%)

  • 北國銀行(20%)

  • 静岡銀行(5%)

  • 愛媛銀行(5%)

  • 佐賀銀行(5%)

  • じもとホールディングス(5%)

ほかにも、SBIホールディングスにはほかにも韓国に貯蓄銀行を保有し(持ち株34%)、生損保事業も持っています。


金融危機が来た時にどの子会社、関連会社を救い、どれを破たんさせるか、その決断がどのようになされるかは現時点で全くわかりません。おそらく、SBIという名前が社名についた会社が優先だとは思いますが、そのすべてを救えるかどうかはわかりません。


そのような状況下にある住信SBIネット銀行については、金融危機の際にやや不安が残ると見立てました。


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