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  • 執筆者の写真ファンクラブ 林則行さん

第83回 「ネット銀行は脆弱だ」という噂が破たんを呼ぶことはないでしょうか?

質問:

米国では中堅の3銀行が破たんし、「中小は危ない」という噂が広がり、大手への預金移動が始まったとの報道がありました。日本で金融不安が始まった場合、多くの預金者がネット銀行から大手銀行へ預金を移動し、ネット銀行が破たんに追い込まれる事態は起きないでしょうか?


回答:

ネット銀行は安全です。心配し過ぎないようにしましょう。


解説:

群集心理は確かに怖いです。一般には、「寄らば大樹の陰(かげ)」と」言われる通り、金融危機への不安が人々の頭をよぎるようになると、「大手が安心ではないか」と思う人が出てくるのは自然なことです。それでも、日本のネット銀行は安全です。


理由

➊日本には逆ザヤ問題がない

米国の銀行が破たんした最大の理由は逆ザヤでした。つまり、短期金利の利回り>長期金利の利回りとなってしまったのです。通常、銀行は短めの低い金利を払ってお金を調達し、それを長めの高い金利を受け取れる先(住宅ローン、企業への貸出)にお金を貸し出します。ここで生じる利ザヤが銀行の利益になるわけです。


こうした収益構造のもと、短期金利>長期金利となってしまったので、貸出が損失になってしまいました。その結果、2023年になって史上2番目、3番目、4番目という大規模な破たんが続けて発生してしまったのです。


日本では今なお、長期金利>短期金利という構造ですから、こうした収益悪化は生じていません。


簡単に言えば、「ネット銀行が危ない」という噂が立ちにくいということです。仮に噂が立ったとしても大きく広がる前に立切れになるでしょう。


❷ネット銀行の破たんは政府の施策の破たんにつながる

政府は現金を使わずに、できるだけオンライン決済を増やすことを目標にしています。将来は日銀が発行するデジタル通貨のみを使用させ、現金を廃止してすべてをオンライン決済にしたいのです。理由は、所得隠しを全滅させ税金をきっちり取り立てるためです。


ネット銀行はこの目標にかなっているので、ネット銀行の破たん懸念が生じると、庶民の現金使用が増えてしまう恐れがあります。そのため、ネット銀行が破たんまたは信用不安の状態となれば、政府は預金全額保護に動くでしょう。



❸大きいから破たんさせることができない

大きな銀行を破たんさせてしまうと、金融不安が一気に全国に広がってしまいます。図にあるように、ネット銀行最大手の楽天銀行は2022年9月末(中間期)においては、全国17番目の大きさを誇る預金額(8.3兆円)でした。また、ネット銀行8行の預金総額は30兆円でした。りそな銀行に次ぐ規模です。もう破たんが許される規模ではないでしょう。


こうした理由からも1000万円以上の預金全額を保護する方針を取るでしょう。


米国では25万ドル(3500万円)以上の預金は保護されないという決まりなのですが、中堅大手3行(シリコンバレー銀行、2023年3月、シグニチャ―銀行、2023年3月)、ファーストリパブリック銀行、2023年、5月)においては全額保護の方針を打ち出しました。史上2,3,4番目に大きな破たん規模なので、これらの預金者に迷惑をかけてしまうと金融危機が次々に発生してしまうリスクがあったからです。


また、史上最高の銀行破たんとなったワシントンミューチュアル(総資産3070億ドル)においても、全額預金保護の方針を決めました。注目は、同行が破たんした2008年9月25日が米国にとって金融危機の絶頂にあるような時期だったということです。具体的に言うと、2008年9月に入ると政府の住宅公庫2社、リーマン証券、メリルリンチ証券、AIG(世界最大の保険会社)の破たんが起こった直後の出来事でした。


リーマン証券を救済せずに、清算に持ち込んだ政府が、法律通りに25万ドル以上の預金を保護しない方針を打ち出したとしても何ら不思議はありませんでした。しかし、預金は全額保護の方針が打ち出され、会社をJPモルガンチェース銀行へと受け継がせました。


大型の銀行破たんが起きると庶民レベルで大きな動揺が広がり、これがさらなる金融恐慌を引き起こすのが怖かったのでしょう。それが実現してしまうと、1929年に始まった世界大恐慌を超えるものになってしまった可能性がありました。


このような経緯を考えると、ネット銀行レベルの銀行を全額保護しないという方針が取られるとは考えにくいです。


大事な注釈

大きな銀行を破たんさせてしまうと、それが全国規模に広がってしまうため、預金を全額保護する。この理屈が成り立つとしたら、順位1位の三菱UFJ(預金210兆円)も破たんさせないのでなないか?


これは違います。こうした予防措置は、不安心理の拡大を防ぐために行なわれます。別の言い方をするならば、金融危機の始まりに適用されるということです。金融危機が本格化したあとは、危機はそれ以上に悪化できないほど悪くなっているわけですから、予防的装置は効果がありません。こうした時期には悪いものは破たんさせる以外に道がなくなっているということです。




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