投資家の総意から将来を占う
将来のことは不確定で、いつ何が起きるのかわかりません投資に関して、将来を占うのに最も簡単な方法をお教えします。
それは投資家の総意を探ることです。投資家は自分のお金を賭けるのですから、真剣です。その人たちがどのような考え方をし、行動しているのかがわかれば参考になるでしょう。
金融恐慌とは、人々が金融機関に不安を持ち始め、預金を引き出し始めることからスタートします。つまり、人の心理が金融恐慌を生み出すわけです。投資家は普通の人に先立って不安な(時には安堵の)気持ちを持つでしょうから、投資家の総意がわかれば、これから金融市場で何が起きるかわかるでしょう。
投資家の総意は株価に現れます。
具体的に見ていきましょう。
図表1にあるように、6つある脆弱銀行は株価が2023年に入って高値から5月17日までに41%~79%下落しました。2023年はまだ半年も経っていないのに、株価がここまで落ちるのは投資家がよほど警戒しているからです。
パックウエスト銀行の株価は投資家の意志の現れ
特にパックウエスト銀行に注目します。同行は2月の高値から3月にかけて株価が急落しました。ここまでの下落幅は50%以上でした。これは、これまでに破たんしたシリコンバレー銀行、シグニチャ―銀行、ファーストリパブリック銀行ほどではないものの、大変大きな下落でした。投資家・預金者が不安になっていることがわかります。
そこで同行は人々の動揺を防ぐため、米国の投資会社から14億ドルを調達し、公的資金から合計126億ドルを借り入れるといった方策を取って、「会社は資金的に安泰」といったコメントをCEOが発表しました。3月20日時点での預金総額271億ドルに対しこれらの資金は十分大きな金額です。
しかし、投資家も預金者も納得しませんでした。株価はその後も下がり続け5月4日には今年の高値から88%の下落率を記録してしまいました。「信用できない」と人々から思われたようです。
こうなると、残る手段は身売りしかありません。つまり、ファーストリパブリック銀行のように大手の傘下に入ることでしか信用不安を取り除くことができないということです。身売りは時間の問題でしょう。
最大の問題は債券
パックウエスト銀行が今後の破たん候補の一番手のようであり、成り行き次第では図表1にあるどこの銀行でも後に続くようになるでしょう。
最大の問題は債券の全体に占める割合が大きくなり過ぎたことにあります。図表2には米国全銀行の預金と貸出の伸びを記したものです。これを見ると、2008年のリーマンショックを過ぎた頃から、預金の金額が貸出の金額を大きく上回るようになりました。預金が集まった分の資金は何かで運用しなくてはなりません。そこで、銀行は債券運用を大幅に増やすことにしました。
債券は金利が低下していく局面では価格が上がるので、含み益が大きくなります。逆に金利が上昇していく局面では含み損が広がります。2020年からインフレが始まり、金利は上昇基調に転じています。債券運用により銀行の収益は悪化してしまいました。
債券運用には貸出にはないノウハウが必要で、そうした人材を多く保有する大手銀行は中小銀行に比べて収益の落ち方が緩やかでした。中小銀行の一部(脆弱銀行)が大幅に株価下落したのに対し、大手銀行の株価下落率(図表3)を見ると、今年の高値から5月17日までの株価の下落率は最も小さい銀行で6%、最も大きな銀行で22%にとどまっています。脆弱銀行の下落率とは大違いです。
破たんが脆弱銀行にとどまっているうちは米国や世界全体を巻き込んだ金融恐慌は起きないでしょう。金融恐慌が起きる前には大銀行の直近の株価が半分以下になる事態が生じるでしょう。
大手銀行の一角は低収益体質となっている
世界を揺るがすような金融恐慌の可能性は低いのかということ、それは違うと思います。それは図表3にある大銀行の最高値からの下落率に現れています。最も下落率の高いナットウエスト銀行(英国大手)は高値から97%も下がっています。8割以上の下落となった大銀行が、英国では3行、米独伊仏には1行ずつあります。
最高値は2005年~07年につけています。リーマンショックの前の高収益体質だった時期です。米国を始め欧米各国はリーマンショック後平均株価が大きく上がっていますから、これらの会社は経済の波に乗れなかった負け組ということになります。
また、株価が8割以上の下げになっているということは低収益体質になってしまったということでもあります。リーマンショック後、大銀行は人員整理やリストラも積極的に行いましたが、往時の収益には全く届かない状況が続いています。つまり、大手銀行も一皮むけば、脆弱になっていることを現しています。
これらのうち一行でも破たんに陥れば、世界全体は金融恐慌の道をまっしぐらに進むことになるでしょう。
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