質問:日銀が新総裁になると、何か重要な変化がありますか?金融政策には変更があるのでしょうか?
回答:最も重要な変化は、「新総裁では来る金融危機には十分には対応できないだろう」ということに尽きます。前総裁から新総裁になって、質が下がったということです。
前総裁は過去の日銀総裁と比較して、抜きんでて仕事力が高い人でした。前職はアジア開発銀行(在フィリピン)のトップであり、この仕事を8年も続けることができました。黒田氏の英語力は完璧といえるレベルではないですから、本来なら海外ではトップの仕事は務まりません。それが8年もトップとして君臨できたのは、同氏の仕事力の高さにあります。
ここは大切なところですから、解説をつけます。一般に、海外で成功するには仕事力が抜きんでているか(例:英語はできないが、とびきりうまい寿司が握れる職人)、または英米人に気に入られるレベルの流暢な英語が話せるか(所謂、おべんちゃらのうまい英語屋)のどちらかです。黒田氏は英語力はまずまずな上に、仕事力が卓越していました。なお、仕事力の高さは同氏の顔を見れば自信に溢れています。
これに対して、新総裁の植田氏は学者の出身であり、これまで組織の長となった経験がありません。仕事力についても70代に入った今では、学者時代に比べて落ちています。正直に評価すると、大会社の課長としてなら良い仕事ができるレベルの人です。この方の顔には繊細さが残り、大きな決断をするには仕事力が足りない感じです。
金融政策の大半は米国からの指示によって決まります。米国は自国に有利になることしか属国であると考えている日本には言わないでしょうから、日銀総裁の仕事の最重要ポイントは、「どこまで米国の指示に拒否を示せるのか」に尽きるでしょう。「仰せはごもっともですが、日本には日本の事情があります。ご指示の8割は承(うけたまわ)ることができますが、2割は当国の事情に応じた方策を行っていいでしょうか」といった駆け引きができなければなりません。
黒田氏の優れたところは、米国と違い、日本の短期金利を長期金利より高いものにすることがなかったという点です。短期金利の方が長期金利より高いのは経済上の大きなひずみです。黒田氏はひずみのないイールドカーブを維持することに成功しました。(米国の逆イールドカーブについては、2月8日の定例発信「大混乱の米国金融市場」参照)
新総裁は米国に対してYES以外の発言をすることは無理でしょう。ニクソンショックでの日本の失敗が思い出されます。ニクソンショックとは、1971年8月15日(日本標準時1971年8月16日)にアメリカがそれまでの固定比率(1オンス=35ドル)による米ドル紙幣と金の兌換を停止 した事件です。この結果、米国ドルの価値が見失われ、日本円とドルの固定為替レート(1ドル360円)の根拠が失われてしました。そんな時期に、日本は固定レートで為替市場を開いたままにさせられました。
他国は早々と為替市場を閉じて対応策にあたったのですが、日本が変動相場に移行したのは8月28日になってからでした。その間、日銀には高いレートのままドルを買い支えたため、巨額の為替損失が生じました。
来る金融危機においては、同じような有難くない役割を引き受けさせられる可能性があります。
林さんの書籍でも私達素人にわかりやすくマーケットのことを教えていただきましたが、このブログ(と言っていいんですか)もわかりやすくマーケットの本音を教えて頂き、ありがたいです。