質問:景気が悪くなり始めると、一気に悪化が進むのでしょうか?
回答:一気に悪化が進むリスクが高いです。理由は経済的に恵まれない人たちが増えていることにあります。
分析:
「日本人は貧乏になってきている」とよく言われます。具体的には、図1にあるように、生活保護世帯が増加していることに現れています。1990年代の後半から増加の一途をたどり、今では160万世帯が生活保護を受けています。日本の世帯数は約5340万世帯ですから、約3%が生活保護世帯です。
これと対照的なのが失業率の傾向(図2)です。2009年からは景気が上向きになっているので、戦後70年間の最悪だった2009年7月(リーマンショックの景気の谷の頃)の失業率(5.5%)はその後一気に改善を見せ、最近の最低値は2019年12月2.2%(コロナ発症前)にまで下がりました。この値は1980年代の景気絶頂期と比較しても遜色(そんしょく)のないレベルです。
ここまで雇用状況が改善しているのに、生活保護が減少する兆しを見せません。最大の理由は所得が落ちているからです。具体的には、正規雇用(正社員)比率が下がり、非正規雇用(パートやアルバイト)が増えていることにあります。1984年に15%だった非正規雇用は徐々に比率を高め、今では37%にまでになっています。
国税庁の2021年民間給与実態統計調査によると、正社員の平均給与が32.1万円なのに対し、非正規雇用者の給与が14.6万円です。正社員の45%の給与しかもらっていないのです。しかも、景気が悪くなれば、非正規雇用者は比較的容易に職を失うことになるでしょう。このような状況下にあれば、誰もが自分の財産を守ることを第一に考え、消費行動は下がっていくでしょう。
不景気のもうひとつの問題は自殺が増えることです。男性の自殺は景気と敏感に連動しています。日経平均が7000円割れ(1990年以降の最安レベル)となった2003年には10万人あたりの自殺者は40人もありました。戦後最悪の数値です。景気が良くなるにつれてこの数値が改善し、2021年では23人にまで減少しています。
不景気の際は逆のことが起きてしまいます。つまり、自殺が一気に増加傾向に転じるということです。
マスコミは生活保護世帯の苦悩や自殺の増加を大きく報道することになるでしょう。それが暗い世相をさらに暗くすることになりそうです。こうして、将来に希望の持てない人が増加すると、悪化し始めた景気はさらに悪化の度合いを深めていくものと思います。
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