総務省統計局家計調査(2023年)によると、日本人の貯蓄額(中央値)が前年に比べて減少していることがわかりました。
統計用語はわかりにくいので、解説を加えながら話を進めます。最初に「平均」についてです。日本人の貯蓄額(2人以上の世帯)の平均貯蓄額は1904万円となり、昨年の1901万円から若干伸びました。
皆さんの中には、「1904万円が平均ってどういうことだろう?自分や自分の知り合いにそんな金持ちはいないぞ」と思った方がいるでしょう。その通りで、この「平均」という考え方が曲者(くせもの)です。
平均は日本人全員を足して総人数で割った数字です。中には1億円以上を貯蓄している人がいます。この人たちが平均額を大幅に引き上げてしまっているのです。そこで、実態をより的確につかむために用いるのが中央値という考え方です。
中央値の考え方はこうです。
日本人全員をお金のある順番に並ばせます。日本人がちょうど1億人いるとすると、1番が最も金持ちであり、1億番が最下位ということになります。中央にいる人は5000番で、この人の貯蓄額を「平均」として採用しようという考え方です。
この方法によると、中央値は2023年で1107万円です。これは前年の1168万円から61万円減少しています。平均値が上昇したのに、中央値が減少したということは、「金持ちは豊かになったが、貧乏人が増えたので、中央値が減少した」ということになります。
2023年は株価が史上最高値へと向かう、景気のいい年だったとされていますが、実態はそうではなかったということがわかります。物価高で庶民は貯蓄を取り崩して生活を支えている姿が明確に現れました。中央値が68万円減少したのですから、取り崩し額が68万円近かったという言い方ができるでしょう。
しかも、この統計は貯蓄のある人だけの統計になっています。貯蓄がゼロの人が統計に含まれていないのです。ゼロの人を含めると、中央値は1107万円から75万円下がって1032万円になっています。政府の統計は、できるだけ見栄えが良くなるように、定義を自分に都合のいいように調整するのです。
一部の金持ちがさらに豊かになり、庶民が取り残されるーーこれは先進国全体に見られる現象です。こうした格差の乖離が続けば、取り残された庶民の暮らしはますます厳しくなり、最終的には景気全体が崩れていくことになります。政府も金持ちもそれを望んでいないはずなのですが、阻止する名案があるわけではありません。先進国全体の景気悪化は必至でしょう。
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