質問:
世界の中央銀行が金の買い増しを行っているという報道を目にしました。本当なのでしょうか?
回答:
最近は中央銀行の買い増しが進んでいるという報道が少なくありません。ぼくは、世界の毎年の全需要の5年超にあたる量を、中央銀行が近日中に買い増していくのではないかと思っています。
解説:
1.世界の3割が金本位制を採用する
BRICS各国が金本位制に基づく通貨を創設するという報道が散見されるようになりました。ロシアの国営TVがこの報道を肯定しました。8月下旬に行なわれるBRICSサミットにて正式に発表されるとのことです。
なお、BRICSとはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ5か国の英語名の頭文字を並べたものです。
BRICS通貨とはどのようなものになるのか?
BRICS間の国際取引(例:貿易や資産の購入)についてBRICS通貨を用いるものです。例を中国にして説明しましょう。中国には現在、多額の外貨準備が積み上がっています。貿易黒字が大きいからです。この外貨準備の大半は米国ドルです。これに対して、BRCIS通貨が創設されれば、中国はBRICS諸国間の取引に関して、外貨準備をBRICS通貨にしようとものです。
なお、BRICS各国の日常生活には全く影響はありません。例えば、中国国内では人民元が、インドではルピーがそのまま使われます。
この構想は8月下旬に行なわれるBRCISサミットで発表され、この通貨には他に8か国が加盟申請中だと言われています。
正式に加盟申請している国は以下の8カ国
アルジェリア、アルゼンチン、バーレーン、エジプト、インドネシア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦
<BRICSがこの通貨の創設を急ぐ理由>
① 米国ドル価値の大幅な下落を見込んでいる
NYダウが近い将来に暴落することを世界の有識者は気づいています。現在、米ドルの形で積み上げているままにしておくと、外貨準備が大幅目減りすることになってしまいます。
② 米国からの制裁を逃れる
米国にそそのかされてウクライナ侵攻・戦争を始めることになったロシアは国際的な制裁を受けています。特に大きな経済的ダメージは外貨準備の凍結です。凍結という言葉は実は実情をうまく伝えていません。正確には米国に取り上げられたのです。その金額は73兆円にのぼると言われています。
BRICS各国(ならびに加盟申請中の各国)はこの金額を見て、「米国の逆鱗に触れると大変なことになる」と理解しました。取るべき道は2つのうち1つです。EU諸国や日本のように、米国の言うなりになるか、自主通貨を作って米国と距離を置くかです。米国の言うなりになれば、日独が受けているような経済的な搾取が続きます。だったら、距離を置こうという選択をしたわけです。
なお、新通貨については、BRICS各国、申請中8か国以外にも、17か国が加盟に興味を示してしています。以下の国々です。
アフガニスタン、バングラデシュ、ベラルーシ、カザフスタン、メキシコ、ニカラグア、ナイジェリア、パキスタン、セネガル、スーダン、シリア、タイ、チュニジア、トルコ、ウルグアイ、ベネズエラ、ジンバブエ
BRICS各国と加盟申請中8か国の合計のGDPは世界の28%超になります。これに申請検討中17か国を加えると33%超になります。ここまでの経済規模になれば、取り潰してしまおうとする勢力があっても簡単にはやられないでしょう。
しかも、この通貨はゴールドを裏付けるようです。世界の経済の3割がゴールドに裏付けられた通貨を用いるとなれば、ゴールド価格に与えるインパクトは絶大なものになるでしょう。
2.金需要は中央銀行以外からもどんどん出てくる
ゴールドを裏付けとして通貨を創設するには、大量のゴールドを中央銀行が保有する必要があります。そのためには世界の需要の5年分にあたる買い増しが必要なのではないかとぼくは試算しています。しかも、BRICS通貨の創設までにはゴールドを買っておかなくてはなりません。いつから機能させるのかは現時点ではわかりませんが、おそらく数年先でしょう。ゴールド価格には大きな追い風になるでしょう。
世界需要の5年分:計算の根拠
既にロシアは金本位制を採用しています。ロシアの中央銀行が現在持つ量と同じ量のゴールドが各国中央銀行も必要だと仮定します。ただし、各国の経済の大きさがそれぞれ違うので、それを考慮する必要があります。
ロシア中央銀行が保有しているゴールドは同国のGDPの6.5%にあたります。これに対して、BRICSと加盟申請中の8か国、合計13か国が保有しているゴールドはGDPの1.4%に過ぎません。(この1.4%にはロシアを除いて計算しています。)例えば、中国は0.5%、インドは1.5%です。
この値を6.5%にまで引き上げるとします。現在13か国が保有するゴールドの総量は現状では6,318トンで、これに加え(対し)て、25,465トンを買い増す必要があります。
これに対して、世界のゴールド需要は2022年で4700トンですから、25,465トンは世界の需要の5.4年分になります。
ゴールドの裏付けのある通貨とない通貨ではどちらが信頼に置けるか?という問いを世界の人たちは始めるでしょう。答えは決まっています。ゴールドの裏付けのない通貨の国の人たち(例:米国人、日本人)は自国通貨が相対的に不安定だということに気づき、自分の資産をゴールドに換えるようになるでしょう。銀行預金(裏付けのないお金)から金地金(本物のお金)へのシフトです。
当然、ゴールド価格が上がります。ゴールド価格が上がれば、BRICS通貨の価値(=為替レート)も上がります。すると、BRICS通貨の下に暮らす人たちは、それまで行っていた海外投資(例:米国債などのゴールドの裏付けのない国の証券投資)を引き上げて、BRICS通貨建ての投資を増やすでしょう。このことにより、さらにゴールド価格が上昇することになります。
全世界的にゴールド需要が拡大するようになるでしょう。中央銀行からの需要増が5年超分だと試算しましたが、ほかの需要も合わせると膨大な量になるのではないでしょうか?
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